戦国鍋からなんとなく歴史を学ぶ

戦国鍋からなんとなく歴史を学ぶ

なんとなく歴史を学びたい。

敦盛2011/信長と蘭丸

敦盛2011/信長と蘭丸
作詞:安部裕之 作曲:奥村愛子 編曲:安部潤  
 

元ネタ

歴史:織田信長森蘭丸 

ユニット:修二と彰、曲は青春アミーゴ

 

メンバー

 

(バックダンサー「小姓ダンサーズ」)

  • 種田亀(おいだかめ)
  • 伊藤彦作
  • 久々利亀(くくりかめ)
  • 狩野又九郎
  • 落合小八郎

 

歌詞

初めて会ったあの時に 君と生きると決めたんだ
オレの心の桶狭間 埋められるのは君だけさ

 「心の桶狭間は信長が今川義元を破った桶狭間の戦いから取っています。心の隙間のことを言っていると思われます。

 

騙されないよその笑顔 小姓の気持ちもてあそぶ
頭の中はいつだって 天下布武しか無いくせに

天下布武」は信長が掲げた目標で、書状に押す朱印にも用いた*1言葉です。

 

オレが統一したいのは二人の心 分かるだろ?
言ってるんでしょ 同じこと他の小姓の耳元で

信長は天下統一を試みましたが、二人の心も統一したいようです。

 

君が信じてくれるなら どんな願いも叶えよう
武田勝頼討ち獲ったら 城持ち大名になりたいな

 蘭丸は武田勝頼が討ち取られた甲州征伐の後に美濃金山城の城主となりました。元々は兄の長可がこの城の城主で、長可は甲州征伐で手柄を立てて得た信濃の領地に移りました。

 

君だけだよ おらん
楽市楽座はノーサンキュー
君だけしか おらん
愛の敦盛 独占させて
ビリーブ

蘭丸の愛称「おらん」と「居らん」(いない)をかけています。

楽市楽座は信長が城下町を繁栄させるためにとった政策で、特権を有する商工業者の組合である「座」を廃止し、市場税税を免除して新興商人の自由営業を許可するというものでした。

つまりは「他の人との取引(恋愛)は駄目、自分が利益(=歌詞中の“愛の敦盛”)を独占させてもらう」と読むこともできます。

 

下天の内をくらぶれば
夢幻のごとくなり
今宵2人でうつけよう

「下天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり」は舞の曲目『敦盛』の一節です。

「うつけ」は「まぬけ」を意味します。信長は「大うつけ」と呼ばれていました。単語としての意味はまぬけなのですが、今宵なんて言っていますし、この歌の文脈でのうつけは果たして何を意味するのでしょうか。

 

君の心の包囲網 解いてみせるさ ホトトギス
聞きたくないよ永遠に もう尾張だね そんな洒落

「心の包囲網」は信長と敵対する勢力間で結ばれた同盟「信長包囲網」から取っています。

ホトトギスは鳴かないホトトギスへの接し方に三英傑の性格を表した川柳(後世の創作)から取ったものと考えられます。

尾張」は信長の生国で、「終わり」と掛かっています。

 この曲での信長の年齢設定は47歳なので、オヤジギャグお洒落な言い回しが多めです。

 

三段撃ちで 愛してる 聞かせてくれよ ホトトギス
言わせるんでしょ 同じこと他の小姓の唇で

「三段撃ち」は三段構えの鉄砲隊が交替で一斉射撃を行う戦法で、信長が長篠の戦いで無敵と言われていた武田の騎馬隊を破ったときに用いたとされています(諸説あり)。

 

君が信じてくれるなら オレの一字を与えよう
長の一字をいただいて 森長定と名乗ります

長定の名については、信長から一字をもらったものなのか、また本当にこの名を名乗っていたのか疑問視されています。

 

君だけだよ おらん
二人の愛の巣 安土城
こっち向いて ごらん
天守閣は吹き抜け構造
ビリーブ

安土城天守閣は吹き抜け構造です。火がよく回りますね。火事で消失してしまっても仕方ないかもしれません。

 

下天の内をくらぶれば
夢幻のごとくなり
今宵2人でうつけよう


君だけだよ おらん
楽市楽座はノーサンキュー
君だけしか おらん
愛の敦盛 独占させて
ビリーブ


下天の内をくらぶれば
夢幻のごとくなり
今宵2人でうつけよう

 

 

ちなみに

天下布武は「武力で天下を制圧する」といった意味で解釈されることが多い語ですが、近年の研究では「足利将軍家のもとに畿内を平定する」という解釈も出てきており、度々NHKの歴史番組等で紹介されています。

 三段撃ち戦法は、それぞれの列で各自弾を装填して交互に撃ったという説、弾の装填作業を分担して行った説などがありますが、物理的に不可能だったのではないかとも言われています。

 

蘭丸の名前の表記は"蘭"丸ではなく"乱"丸が正しいようです。存命中の書簡には「乱法師」などの表記があります。(「蘭丸」は後年の史料にしか登場しませんが、「乱丸」表記より認知度が高いため、研究者等も便宜上この表記を使うことが多いようです。)
また、蘭丸が信長から一字を拝領して長定と名乗ったという説は『寛政重修諸家譜』(江戸時代の文書)などで唱えられていますが、蘭丸が差出人の書簡(『金剛寺文書』に収録)には「森乱成利」の署名が見られます。 

 

雑感

不動の人気曲。「戦国鍋は分からないけどこの曲だけ知っている」という方もかなりいるのではないでしょうか。他の曲も秀逸なのでぜひ。

なんとなく聴いていると歴史用語だらけの歌詞のインパクトに気を取られますが、その意味するところ(と思しきもの)を改めて文字に書き出してみると蘭丸の激重感情が立ち現れてきました。この歌詞でも重く見えないのはキャストのお二人の演技のおかげらしい。喧嘩中の回では曲の歌詞と振り付けと歌声は同じものなのに、突き放す/焦る演技が真に迫りすぎていて激重感情が(幻視かもしれませんが)はっきり見えるのが恐ろしいです。

「俺の心の桶狭間」と「君の心の包囲網」、歴史用語を絡めた歌詞が強烈で初めは気付かなかったのですが、表現が対になっていて面白いです。

ところでこの2人、曲の中では恋人のようにストレートに愛を叫んでいますが、トークでは自分たちは武将と小姓であり、あくまで主従の関係だと強調しています。二人が衆道関係にあったという説は、小姓と主人は通常そういった関係になるものという一般論に基づいており、二人が実際そうだったと裏付ける確かな資料がないことに配慮しているものと考えることもできます。(蘭丸が有能で信長からの信頼も篤く、重用されていたことは確かなようです)

 

小姓ダンサーズにわざわざ名前が付いていることについて。「いちいち芸が細かい戦国鍋のことだから、実在した小姓の名前から取ったのだろう」程度に思っていましたが、ちょっと検索してみたところ、本能寺で討死した小姓として文献に名が残っているらしいことが判明。さすが戦国鍋、チョイスがむごい。

敦盛の「人間五十年 下天のうちをくらぶれば 夢幻の如くなり 一度生を受け 滅せぬ者のあるべきか」のフレーズは、「人間の寿命って50年くらいだよね、短いよね」という意味に取られがちですが、ざっくり言うと「人間界での50年は天上界の一日に相当するくらい短いから有意義に過ごそう」という意味になるようです(超意訳なのであしからず。詳細は本職の方のブログや本などでお確かめください)。この辺りのことは六欲天をご存知の方にとっては一般常識かもしれませんが。

 

信長周辺は年々新説や新史料が出てきていて目が離せませんね。
信長と蘭丸に関しては制作陣の作り上げた素敵な世界観を楽しみつつ史実とそうでないネタのラインを認識しておきたかっため、野暮だと思いつつ色々突っ込んでしまいました。蘭丸が有能な小姓だったのは間違いないらしいと分かったので満足です。

 

参考

「人間五十年」 幸若舞「敦盛」 : 能楽師・柴田稔 Blog

*1:https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1915625 

こちらの227コマに信長の用いた天下布武の印が載ってます。